映画は、とある女子修道院(ポーランドは、人口のほとんどがカトリック)で、誓願式を前にした18歳の修練者が、唯一の親類である叔母を訪ねてくるように、修道院長に命じられる場面から始まる。貞潔・清貧・従順を神に誓うのだから、ありそうな話だ。主人公は修道院で育てられた戦争孤児で、アンナと呼ばれていた。叔母には一度も会ったことがない。彼女は、叔母ヴァンダから、自分がイーダ・リーベンシュタインというユダヤ人であることを知らされる。二人はイーダの両親と、ヴァンダの一人息子の最期の模様を訊ねる、旅に出る。
設定は1962年。登場人物の心には、まだ戦争の傷が疼いていた。レジスタンスの戦士として戦火を生き延びた叔母は、戦後、共産主義国家の検察官となって、反体制派の人たちを次々に検挙し、「赤のヴァンダ」と恐れられた。スターリン主義者に死刑台に送られた人たちの中には、無実だった人も多いと聞く。ここで「ユダヤ人=アカ」というステレオタイプが再生産されていることは、ポーランド史に疎い私のような観客には、ちょっと分かりにくい。
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